伝統工芸におけるAI活用とは?事例と海外展開への活かし方




さまざまな分野でAI(人工知能)の活用が進んでいる昨今、伝統工芸の世界でも、AIを活用する動きが広がっています。
例えば、職人の技術を記録して継承に役立てる、伝統的な柄のデザインを考える、商品の説明文や海外向けの資料を作成するといった使い方など。
一方、AIによる画像やデザインの生成が身近になるなかで、職人の手仕事や素材の個性にも、あらためて注目が集まっています。
この記事では、伝統工芸におけるAIの活用事例や、海外展開に役立つ具体的な使い方を紹介し、さらに、AI時代に工芸品ならではの価値を海外に伝える方法についてもお話しします。
伝統工芸の分野でAIが注目される背景には、担い手の減少や技術継承の課題があります。
伝統的工芸品の従事者は、1979年の約28万8,000人をピークに減り続け、2022年度には約4万8,000人になりました。さらに従事者の6割以上が50歳代以上です。
出典:経済産業省「第15回エンタメ・クリエイティブ政策研究会【伝統的工芸品】(事務局資料)」(2026年3月9日) /日本工芸産地協会「地域サプライチェーンと小規模事業者の関係 ~工芸業界の場合~」(中小企業庁 小規模企業基本政策小委員会 配付資料、2018年10月12日)
職人の技は、長い年月をかけて身につける「勘」や「経験」によるものが多く、言葉やマニュアルで伝えるのが難しいものです。そこで、
といった目的で、AIやデジタル技術への期待が高まっています。

伝統工芸の分野におけるAI活用事例として、たとえば次のようなものがあります。
文京学院大学 経営学部のゼミは、2021年から伝統工芸の活性化に取り組んでいます。江戸小紋の図案の作り方を理論として整理し、職人が多くの時間をかけていた「柄の配置」を自動で作るAIプログラムを開発しました。
この取り組みから生まれた新作「スイーツ尽くし小紋」は、2024年5月に商品化されています。プロジェクトでは、AIに職人の仕事を置き換えさせるのではなく、職人の手仕事を支える立場をとっているのが特徴です。
情報処理推進機構(IPA)の「未踏アドバンスト事業」(2025年度)では、伝統木工「組子」のデザインを支援するシステム「kumikoAI」が開発されました。
画像や文章から組子のデザイン案を作り、編集や立体での確認までを一つの環境で行えます。AIが出した案をそのまま使うのではなく、職人が手を入れて調整することを前提にしている点がポイントです。経験に頼っていた組子の表現を、設計に使える知識として整理する試みでもあります。
出典:情報処理推進機構(IPA)2025年度未踏アドバンスト事業「伝統工芸『組子』のデジタル技術活用による技能拡張と技術継承」成果概要
2つの事例に共通しているのは、職人が長い経験で身につけてきた技や考え方を、AIで扱える形に整理していることです。そのうえで、AIが出した案を職人が選び、仕上げています。
また、事例のような技術の記録やデザインだけでなく、日々の事務作業や販売の場面でもAIは使えます。伝統工芸におけるAIの使い方を整理すると、大きく次の3つに分けられます。
海外に工芸品を届けるときにも、AIは心強い道具になります。特に、言葉の壁を下げる作業で役立ちます。
海外の展示会では、商談のあとどれだけ早く連絡できるかが、次の取引につながるかどうかを左右します。こうした「裏方の作業」をAIで速くすることには、大きな意味があります。

AIで英語の商品説明を作成する際は、素材や産地、製法などの事実を先に整理し、生成された文章に誤りがないかを作り手自身が確認しましょう。
特に、伝統技法の名称や文化的な背景は、一般的な翻訳では正確に伝わらない場合があります。
ただし、すべてをAIに任せればよいわけではありません。AIを活用しやすい作業と、作り手自身が担う部分を分けて考えることが大切です。
AIが得意なのは、決まった形のある作業や、たたき台づくりです。
どれも、最後に人が確認し、手直しすることを前提に、手間と時間を減らすための使い方です。
一方で、次のような部分はAIに任せず、作り手自身が担うことが大切です。
これらに共通しているのは、「誰が、どう作ったのか」に関わる部分だということです。そして、この部分こそが、AI時代に工芸品の価値を決める中心になりつつあります。

「誰が、どう作ったのか」が価値の中心になりつつあるのは、伝統工芸の世界に限りません。海外のデザインやファッションの分野でも、同じ動きが起きています。
生成AIを使えば、誰でも数秒で整った画像やデザインを作れるようになりました。
その結果、イギリスのデザイン誌Dezeenでは、生成AIによって身の回りの見た目が似通っていくことを指摘するデザイナーの声が紹介されています。
トレンド予測会社のWGSNは、2026-27年秋冬のファッションについて、デザイナーが作業の跡や不完全さ、素材の質感をあえて見せるようになっていると分析しました。機械ではなく人が作ったことを示すためです。
WGSNの担当者は、作り手の手が見えるデザインには、アルゴリズムがまねできない「意味」があると述べています。
また2026年5月には、Dezeenに、デザイン見本市はAIを使ったかどうかを表示するルールを今すぐ作るべきだ、という寄稿記事が掲載されました。
日本の工芸は、まさにこの流れの中で注目されています。2025年12月にロンドンのジャパン・ハウスで開かれた展覧会「百工(Hyakkō)」では、キュレーターが、日本の工芸は自然の移り変わりを受け入れ、不規則さや偶然を生かし、その土地の素材とともに作ることを大切にしている、と語っています。
AIで多くのものを生成できる時代だからこそ、作り手や制作工程を具体的に伝えることが、商品の差別化につながると考えられます。
出典:Dezeen(2026年1月8日)/WGSN(2026年3月5日)/Dezeen 寄稿記事(2026年5月28日)/Dezeen「百工」(2025年12月10日)

イギリスのデザイン誌Dezeenが2026年9月に掲載した記事「How craft conquered design」では、デザインショップ「Monologue London」の創設者が、客はデザインに惹かれて来店しても、会話はすぐに次のような質問に移っていくと話しています。
これは、ジャパンプロモーションが海外の展示会で日々目にしている光景とも重なります。
AIで説明文を作ることはできても、この5つに正確に答えるには、作り手自身の情報が欠かせません。
海外の研究でも、手作りだとわかるだけで、その商品がより魅力的に感じられることが確かめられています(The Handmade Effect, Journal of Marketing, 2015年)。手作りの品には、作り手の愛情が込められていると感じられるためです。手間と時間をかけて作っていることを、正直に見せることが大切です。
出典:Dezeen「How craft conquered design」 /Monash University「Made with love」

では、工芸品ならではの価値を、海外の買い手にどう伝えればよいのでしょうか。ここでは、「言葉」と「見せ方」の2つの面から、すぐに取り入れられる工夫をご紹介します。
日本の作り手が控えめに説明しがちなことの中には、海外では、むしろ魅力として伝えられるものがあります。
展示会のブースや商品ページでは、次のようなものを見せると「誰が、どう作ったか」が伝わります。
ここで、前半でご紹介したAIの使い方が生きてきます。説明文の英訳やメールの準備をAIで速く済ませれば、そのぶん作り手は、自分の言葉で作品を語ることや、目の前のお客様との会話に時間を使えます。
関連記事:伝統工芸品の海外展開支援とは?海外研究者がジャパンプロモーション代表にインタビュー
AIを上手に使って手間を減らし、空いた時間と力を、作り手にしかできないことに注ぐ。これが、AI時代の伝統工芸と海外展開の、ちょうどよい付き合い方ではないでしょうか。

ジャパンプロモーションは、2015年の設立以来、世界17都市・97回の海外展示会で、のべ3,857社の作り手の出展をサポートしてきました。商品選びや見せ方、英語の資料づくり、現地スタッフの手配、商談の記録とその後のフォローまで、海外展開に必要な実務をまとめてお手伝いしています。
海外展開に興味はあるけれど何から始めればよいかわからない、という方も、まずはお気軽にご相談ください。
