伝統工芸品の海外展開支援とは?海外研究者がジャパンプロモーション代表にインタビュー【前編】




「貴社の取り組みに深く感銘を受けました。ぜひ、ご経験から学ばせてください」──そんな一通のメールが、ドイツから届きました。
送り主は、明治学院大学国際経営学科のヘンドリック・マイヤーオーレ教授 (Prof Hendrik Meyer-Ohle )と、デュッセルドルフ大学のハラルト・コンラット教授 (Prof Harald Conrad)。日本の工芸品の海外マーケティングを共同研究するこの2人が、インタビュー対象として選んだのがジャパンプロモーションでした。「日本の工芸品を海外で販売する際の仲介者の役割は、これまで十分に注目されてこなかった分野だ」と2人は言います。
工芸品をはじめ、日本のものづくりに携わる作り手の海外展開を、これまで数千件以上にわたって支援してきたジャパンプロモーション。商品戦略の立案から輸出・通関・現地での決済・納税・契約まで、海外展開をほぼ一括でサポートするこの組織の代表・生島が、その仕組みと考え方について語りました。インタビューの質問に対する主な回答をお届けします。
── まず、ジャパンプロモーションがどういう組織なのか教えてください。
もうすぐ創立12年になります。前職では美術関係の出版社で、日本の美術家の作品を海外で紹介する仕事をしていました。その会社で今ジャパンプロモーションがやっているような事業を新規事業として立ち上げたのですが、それが事業部ごと独立する形で、2015年にジャパンプロモーションを設立しました。
日本の伝統工芸や美術というのは、これまで「非営利事業」として扱われることが多かったんです。たとえば政府が支援して発表の機会を作っても、税金で運営しているから「販売してはいけない」となる。せっかく欲しいという人がいても売ることができない、という状況がありました。
もちろん、こうした普及活動にも意義はあります。個々の活動を見るとわかりにくいこともありますが、長い目で見ると日本の工芸品に対する認知や関心が徐々に広がっていく。実際に以前と比べて海外で工芸品が売れるようになってきたことで、そのことを実感しています。
ただ、普及活動と並行して、作り手さんの経済に直接結びつける仕組みも必要だと考えています。日本の伝統工芸の生産環境を守り、ユーザーに届けるためには、経済活動として成立させないといけない。そのためには橋渡しをする私たちのような組織も、きちんとビジネスとして継続性を持たせる必要があると考えたんです。
社団法人という形ではありますが、ほぼ会社と同じように運営しています。国や都道府県からの公共事業を受託することも多いですが、資本関係はありません。
── 具体的にどのような事業を展開されているのですか。
大きな柱は、伝統工芸をはじめ日本文化を海外でプロモーションすること、そしてそのための「場」を作ることです。
メインはアウトバウンドのサポート、つまり日本の作り手さんの海外進出を、あらゆる局面で支援することです。
国内でも一部、普及のためのお手伝いをしています。人間国宝(重要無形文化財保持者)の方の作品を扱ったこともあります。
海外向けのオンラインストア機能付きウェブサイト、カタログ、展示会用の映像や説明テキストなどの制作もしています。単に物を置いておいても売り上げにはなかなか繋がらないので、商品を「伝える」ためのツールを一緒に作っていくイメージです。
── 個人作家のものはあまりないですか。
いいえ、個人の作家さんも多いですよ。日本の伝統工芸品は、株式会社ではなく個人事業として、代々その家系で作り続けているというケースが多いですから。個人事業主の方が、自費で海外の展示会に出展されることもありますし、自治体が地域の事業者さんを取りまとめ、そこに当社が入るという形も多いです。
── 出展先としてはどんな展示会があるのですか。
BtoCのイベントで最も多いのが、パリで毎年開催される「ジャパンエキスポ」です。日本の漫画・アニメ・文化全般を扱う大きなイベントで、会場面積は約15万平方メートル、東京ドーム約4個分の規模です。年間20万人規模の来場者が集まります。
当社はこのジャパンエキスポの中に「WABI SABI」というブランドで区画を設け、日本の伝統工芸品や和雑貨を出展・販売しています。任天堂の次に人気があるブースとして認知されるまでになりました。


── 展示会では販売もしているのですか。
そうです。販売だけじゃなくて、やっぱりお客さんとの繋がりを作ることも大事です。日本のアーティストに会いたいという方々が20万人来ていますから、SNSのフォロワーさんもたくさんできるんです。繋がりを作って後でオンラインで購入したりということもあります。
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── B to Bの展示会はどうですか。
パリの「メゾン・エ・オブジェ」などが代表的です。BtoBでは来場するのが世界の小売りバイヤーですから、戦略がまったく違います。彼らはショップを持っていて、そのショップに合うかどうかという目線で商品を探しています。
単純に「和室っぽい演出」の中に商品を置いても、バイヤーはイメージが湧かない。彼らが最終的に想定するのは、海外のエンドユーザーの生活空間です。そこに自然になじむ見せ方をする必要があります。

── そういうアドバイスもするのですか。
します。よく例に出すのがお箸です。日本が好きでこういうものを買いたいという人は世界中にたくさんいますが、家で毎日お箸を使って日本食を食べるというのは、よほどのコアなファンでないと難しい。一方で、カップや小物のように、ドイツならドイツの普通のライフスタイルの中に「1個だけ取り入れられる」ものは、最初によく動きます。
ただ、おもしろいのは、「これは売れないだろう」と思っていたものがすごく売れたり、その逆もあったりすること。だから当社がアドバイスして方向を示しながら、でも最終的には作り手さんが「これを紹介したい」という思いも大切にする。その両方が成立する出し方を考えています。
高価格帯のものは、それ自体が売れなくてもそのメーカーさんの実力を示すシンボルになるので、一緒に並べることで他の商品が売れるということもあります。
── 高価格帯の作品は海外で売れますか?
可能性はあります。 例えば人間国宝の方でも、高価な作品作りだけでは事業として成り立たないので、普通に購入されやすい価格帯のものも作っている方がほとんどです。一方で、200〜300万円クラスのものは「生活用品」としてではなく「美術品」として売れる可能性があります。日本の工芸に精通した海外の富裕層、あるいは日本ファンでなくても美術品として購入する層に届くなら、十分に市場があると思っています。
── 展示会出展のサポートはどこまで行うのですか。
出展にあたってやらなければならないことは本当にたくさんあります。商品の選定・戦略立案から始まり、輸出の手配、展示ブースのデザインと制作、現地スタッフの手配、実演・体験の企画、バイヤーとの商談サポート、受注後の契約書の作成、代金の徴収(海外送金の代行)、納品のための輸出手配まで。これら全部をサポートしています。
── 決済や納税まで代行されているとは驚きました。
たとえば日本の作り手さんが手持ちで商品を持っていってユーロで現金を受け取っても、その現金を日本に持ち帰るわけにはいかない。現地でカード決済を受け付ける仕組みもないし、その国で納税する手続きもできない。なので当社がフランスでの販売の決済を代行し、フランスで会計申告・納税をして、日本側できちんと帳簿に載せられる売上としてお渡しする、という流れです。
海外拠点のスタッフもいますし、各国の現地会計に対応できる会社と協力関係を結んでいます。
── 特に難しい部分はどこですか?
全部、簡単なものはないですね(笑)。ただ、その場で注文してくれるバイヤーさんもいます。難しいのは「いいな」と思ってそのまま帰ったバイヤーさんと、その後もいかにコミュニケーションを続けるかです。そこが私たちが最も大事にしているところです。
── 言葉の壁など、その時のコミュニケーションはどうしていますか。
必要に応じて、現地のバイリンガルスタッフを手配します。ただ、私たちが大切にしているのは「単なる通訳」ではないという点です。日本文化が大好きで、自分の言葉でそれを紹介したいというモチベーションを持ったスタッフを手配できます。なので、作り手さんがその場を離れても、スタッフだけで販売が続けられます。

── バイヤーは1,000個、2,000個と注文することもあるでしょう。日本のメーカーは対応できますか。
特にOEM(他社ブランド向けの製品製造)の注文が入ると、やっぱり時間がかかります。8ヶ月かけて納品したこともあります。その間ずっと、「これはできる」「ここまでは難しい」というやり取りを仲介し続けます。クローズしたら契約書を当社で作り、海外送金を代行し、輸出手配まで対応します。
── 失敗したケースや、大きなミスで破談になったことはありますか。
商談がスタートしてから大きなミスで破談になったことは、今のところありません。ただ、展示会のブースで「注文しますよ」と言って帰ったバイヤーさんが、その後連絡がなくなってしまうということはあります。
── 成功例はありますか。独立した作り手さんなどはいますか。
あります。海外の売上が全体の半分近くになった作り手さんもいます。4回の出展でそこまで到達された方もいます。
── 独立するまでサポートするのですか。
そうですね、フェーズがあると思っています。最初は「1個売れること」が目標です。そこから継続して出展を重ねていくと、最終的には自分で好きな国に出ていって取引先を見つけ、契約も納品も自社でできる状態になることが理想です。
当社はその途中の段階を全部サポートします。初めて出展する作り手さんと3回目の作り手さんでは、注力するポイントが変わります。そこをきちんと見極めながら、段階に合ったサポートをしています。
── コスト面では結構かかるんじゃないですか。
そうですね、今は円安じゃないですか。だから海外に行くのも、いろいろなもの手配してっていうのもお金かかりますよね。最初は投資的な側面があることは事実です。
ただ、うまくいくケースで言うと、1回の展示会に出展して、売れた金額が数千万円というケースもあったり、あとその場で売れたのではないけれど、後から受注が来たものが1,000万円以上来たりとか。全部じゃないですけど、そういう成功の事例もあります。

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── 最初から海外向けにローカライズする必要はありますか。
最初からローカライズする必要はないと思っています。
よく「ドイツ向けに製品をカスタマイズしましょう」というコンサルタントがいますが、それでうまくいったという話はほとんど聞いたことがない。私たちは逆に、「今作っているものそのままを持っていけば、その中に必ず売れるものがある」というスタンスです。ある程度売れてきてからローカライズを検討すればいい。
── 展示会に出すときの価格のアドバイスもしますか。
します。基本的に3段階で考えます。日本での価格、海外展示会での価格、現地小売店での価格です。
展示会価格は、日本の価格に現地の税金や当社の手数料などを乗せたもので、おおよそ日本価格の1.6〜1.8倍です。現地の流通・小売業者が入ると、だいたい日本価格の2.5〜3倍になります。
── 日本の工芸品は海外でどういう可能性があると考えていますか。
これまでの伝統工芸のプロモーションは「日本の良いものです」「歴史があります」「職人の技です」という打ち出し方が多かった。でも、それだけでは限界があります。
買い手のニーズから考えると、今のライフスタイルやインテリアのトレンドは変化しています。少し前は「真っ白な空間、アップルストアのようなシンプルさ」が流行でした。でも今は、質感、温度感、温もりのようなものが求められています。
もう一つ大きな変化は、「有名ブランド品を持つこと」よりも「自分らしさや固有性、物語性を持ったものを選ぶこと」が重視されるようになってきたことです。日本の伝統工芸品には、その土地の自然や歴史、独自の素材、江戸時代から受け継がれた製法がある。それを買った人が語れる、自分の表現として選べる。そこが、有名ブランドと比べても勝てるポイントだと思っています。
── それは国内の市場ですか。海外ですか。国内でも同じですか。
海外です。残念ながら、日本国内よりも海外のほうがはるかにその感覚が浸透していると感じます。日本人はまだ、社会的に評価されているものを好む傾向が強い。海外では街角で絵を買う人がいますが、日本ではほとんどいない。「これが好きで、自分にとって価値がある」と自分で決められる人が、海外には多いんです。
一方で、伝統工芸品はギフトとして非常に向いています。物語があるので、「一生懸命選んだ」ということが伝わる。そこは国内外問わず通じる価値だと思います。

── 今の伝統工芸の産地の状況はどうですか。
昭和の時代は、地域のお客さんがよく買ってくれる良い時代がありました。でも、そのお客さんたちが高齢化し、若い世代はなかなか買わなくなってきた。
今、若い職人さんと年配の職人さんが共存していますが、年配の方は商売として本当に厳しくなってきている。「このまま続けて、次の世代に継承すべきかどうか」という岐路に立たされている方も多い。彼らはまだ、海外にどれほどの需要があるかを知らないんです。
だからたとえばジャパンエキスポに、今作っているものをそのまま持っていってみると、20万人もの来場者がブースに来て、手に取って、感動してくれる。
その体験が、作り手さんにとって本当に大きい。「まだこれだけ望んでくれる人たちがいる」ということを知るだけで、継続する意欲が全然違ってくる。海外展開は、単なる販路拡大ではなく、伝統工芸の継承そのものに関わっていると思っています。
今回のインタビューでは、ジャパンプロモーション代表・生島が日本の工芸作家・事業者の海外展開をどのように支援しているか、その仕組みと考え方について語った様子をお伝えしました。
海外展開に興味はあるけれど、何から始めればいいかわからない。そんな方も、まずはお気軽にご相談ください。展示会への出展相談から、ウェブサイト制作、輸出・販売支援まで、幅広くご対応しています。
「買う側・見る側」のヨーロッパからはどう見えている?記事後編はこちら:日本の伝統工芸品の可能性と課題──ドイツ人研究者インタビュー【後編】