日本の伝統工芸品の可能性と課題──ドイツ人研究者インタビュー【後編】

公開日:
2026-04-02
日本の伝統工芸品の可能性と課題──ドイツ人研究者インタビュー【後編】
日本の伝統工芸品の可能性と課題──ドイツ人研究者インタビュー【後編】

前編】では、ジャパンプロモーション代表・生島が海外展開の仕組みや支援内容について語った様子をお伝えしました。

この【後編】ではその逆側から光を当てます。日本の工芸品の海外マーケティングと仲介者の役割の研究を進めるドイツの研究者2名に、「買う側・見る側」のヨーロッパからどう見えているのかを聞きました。

(写真左)ハラルト・コンラット氏 。デュッセルドルフ大学 現代日本研究所
教授 (Prof Harald Conrad)(経済社会学)。

(写真右)ヘンドリック・マイヤーオーレ氏。明治学院大学国際経営学科教授(Prof Hendrik Meyer-Ohle)(マーケティング・小売業)。プロジェクトは、ドイツ学術振興会(DFG)の支援を受けたより大きな研究プロジェクトと連携しており、日本における工芸生産者の状況を対象としています。ここでは、コンラット教授が京都の西陣織の状況を分析し、プロジェクトメンバーの一人は越前漆器の産地である福井県鯖江市河和田町今立で地域調査を行っています。

そもそも、なぜ日本の工芸品を研究しようと思ったのか

── 研究のきっかけを教えてください。

コンラット教授:私は学生時代から日本の美術・古美術に強い関心を持っていて、20年以上さまざまなものを収集してきました。趣味として日本の工芸品が好きだったので、いつか仕事と趣味を結びつけられないかとずっと思っていて、それが今回の研究プロジェクトに繋がりました。

現在はドイツ学術振興会(DFG)の助成を受け、3つの産地を比較する研究を進めています。

私は京都の西陣織を担当し、プロジェクトメンバーの一人は越前和紙の産地である福井県越前市今立で地域のことを調査中です。もう一人は名古屋周辺で瀬戸焼と常滑焼を研究しています。産地ごとに比較して、共通点と違いを理解することが目的です。

マイヤーオーレ教授: 私もずっと趣味として日本各地を旅行してきました。どの県も訪れましたが、いつも目的はほぼ陶芸の産地巡りです。専攻はマーケティングと小売業で、シンガポールに長く住んでいたこともあり、国際マーケティングの文脈で日本のものづくりに関心を持ち続けてきました。以前、コンラット教授と別の研究プロジェクトをうまく進めることができたので、また一緒に何かやろうということになり、今回「日本の工芸品の海外マーケティングと仲介者の役割」をテーマに選びました。

── コンラット教授は学生時代から萩や備前にも行かれていたとか。

コンラット教授: そうです。まだ日本語がほとんど話せない頃から、萩や備前まで萩茶碗を買いに行っていました(笑)。

研究の動機について語りながら、「結局のところ、自分が好きだということが一番の理由ですね」と、2人は笑顔で顔を見合わせました。

備前焼の一例

ヨーロッパに残る伝統工芸の現状

── 日本の工芸産地がこれほど残っていることについて、どう感じますか。

コンラット教授: 世界を見渡しても、日本ほど伝統工芸が生き残っている先進国はそう多くないと思います。それは本当に稀有で素晴らしいことだと感じます。

── では逆に、ドイツをはじめヨーロッパでは自国の伝統工芸の状況はどうでしょう。

コンラット教授: 厳しいですね。産地という概念で言うと、ドイツにはほとんど残っていません。マイセン、陶器の村フレーデルスロー、エルツ山地の木工産業といったいくつかの生産地域は現在も存続していますが、日本の産地と同様に、多くの課題に直面しています。

マイヤーオーレ教授: 消費行動が変わったことが大きいと思います。昔はドイツでも、結婚したら12人用の食器セットを揃えるのが当たり前でした。今はそういう習慣がなくなって、みんなイケアで済ませるようになりました。

コンラット教授:日本でも結婚の際に着物を揃える習慣が変わってきたのと同じことが、ヨーロッパでも起きています。

── グラスヒュッテの時計産業など、産地として生き残っている例もありますね。スイスの時計も国内で買う人はほとんどいないけれど世界中で売れている。日本の工芸品の将来に似ているかもしれないと思っています。

コンラット教授: ブランド力は高いですよね。

マイヤーオーレ教授: ただ、それができているのは比較的規模の大きな会社で、家族経営の小さなところは難しいのが現状です。

フランス・ブルターニュ地方に残るカンペール焼き

「日本製(Made in Japan)」は海外で強みになるか

── 「Made in Japan」というブランドは、ヨーロッパ市場で強みになり得るでしょうか。

コンラット教授: 可能性は絶対にあると思います。ただ、昔と状況が変わってきています。かつてはソニーやパナソニックといった日本の大手家電メーカーが「日本製=高品質」のイメージを世界に浸透させていた。でも今、ヨーロッパの一般消費者に身近な日本のBtoCブランドがほとんど残っていないので、「Made in Japan」と言われてもピンとこない人が増えているかもしれません。

マイヤーオーレ教授: ドイツ人の感覚で言うと、北欧デザインへの親しみはありますが、日本的なデザインのイメージはまだそこまで強くないですね。フランスとドイツでもだいぶ違うと思います。

── 「日本の工芸品は高い」というイメージはありますか?

コンラット教授: 一般の方には言いにくいところもありますが……正直に言うと、今の為替レートだと「びっくりするほど安い」と思われるケースが多いと思います。たとえばカップに3,000円というのは、日本では「高い」と感じる方もいるようですが、ドイツのインテリアショップでは3,000円程度のものは全然普通の価格帯です。「ちょっと違う味がある」ものなら、むしろ喜んで買う層がいます。

海外で売れるために何が必要か──研究者からのアドバイス

── 日本の工芸品を海外で広めるための課題を挙げるとしたら、何でしょうか。作り手、行政、仲介者それぞれに対して。

コンラット教授: 難しい質問ですね。現在データを収集しているところなので、まだはっきりとした答えは出せないのですが……まず「物語(ストーリー)」が大事だと思います。ヨーロッパでは、なぜこれが作られたのか、誰がどうやって作ったのか、という背景が購買の決め手になることが多い。

もう一つは「サステナビリティ」です。高くても長く使えるもの、修理して使い続けるという価値観が、これからもっと重要になると思っています。

マイヤーオーレ教授: 今はメーカーごとのストーリーがバラバラで、全体として「日本の工芸品とはこういうものだ」という大きな文脈がまだないと感じます。日本のものづくり全体、サステナブルな生産、多様な産地の存在……そういうより大きなストーリーが理解されると、コアなファン以外にも届きやすくなるのではないでしょうか。日本の専門店ではなく、普通のデザインのセレクトショップで扱われるまでには、そこが鍵になると思っています。

── まさに今、サステナビリティや手仕事への関心が高まっています。日本の工芸品にとって追い風でしょうか。

コンラット教授: そう思います。たとえば「金継ぎ」が今、海外でとても注目されていますよね。割れたものを修理して大切に使い続けるという考え方が、サステナビリティの文脈と非常にうまく繋がっている。そこから日本の工芸品全体に関心を広げていけると思います。

マイヤーオーレ教授:海外でありがちな 「エキゾチックな日本」というイメージを使うことには個人的には乗り気ではないのですが(笑)、マーケティングの観点から言えば、そういうストーリーも有効かもしれません。自然、サステナビリティ、ものを大切にする文化……日本の大手自動車メーカーもドイツの広告でそういったイメージを使っていますよね。

──大手自動車メーカーが日本の職人や伝統工芸とコラボした広告を打っていますね。

コンラット教授: そうですね。「日本のものづくり」を前面に出すことで、そのブランド全体の価値を上げようとしている。工芸品の作り手さんも、同じ文脈に乗れる可能性があると思います。

海外でも注目されている金継ぎ

ヨーロッパ市場を知り尽くしたサポートで、海外展開の第一歩を

今回は、日本の工芸産地を研究するドイツ人研究者2名に、ヨーロッパから見た日本の伝統工芸品の可能性と課題についてお聞きしました。

「ストーリー」「サステナビリティ」「大きな文脈づくり」──研究者の言葉は、海外展開を考える作り手さんにとって、具体的なヒントになるのではないでしょうか。

前編では、ジャパンプロモーション代表・生島が、海外展開の仕組みや具体的なサポート内容について詳しく語った様子をお伝えしています。あわせてご覧ください。

[前編を読む:「伝統工芸品の海外展開支援とは?海外研究者がジャパンプロモーション代表にインタビュー]

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