中国東晋時代(4世紀)の政治家であり書家で、「書聖(しょせい)」と称された王義之。この書道史上の大人物に魅せられた現代の書家、釈迦堂高彩氏が、フランス・パリで個展を開きました。
会期:2023年11月3日(金)~9日(木)
会場:GalerieEtienne de Causans 25rue de Seine 75006, Paris
智と文化のブランド街、サンジェルマン・デ・プレ
会場となったのは、「エチエンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリー」。パリ6区のサンジェルマン・デ・プレ地区、セーヌ通りに位置しています。洗練されたショップが立ち並ぶ中に古い町並みが共存しており、トップブランドのデザイナーやセレブだけでなく、世界中の観光客を魅了し続けています。
一方、パリは無数のギャラリーが存在することでも知られています。セーヌ通りは有名ギャラリーが軒を連ねる中心的なエリアで、「エコール・デ・ボザール(フランス国立高等美術学校)」も隣接。カフェや教会もアートで彩られ、ギャラリー巡りをするアートファンや観光客、美術関係者の足が絶えることがありません。
「エチエンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリー」はその中にあって、有名ギャラリーの一つです。

書道史に残された大きな影響と続く敬愛
王義之の書風は、柔らかく適度な抑揚があり、流れるような美しさや品格が漂うことなどが特徴的です。それまでの角張った文字を改め、後世に多くの影響を与えました。
その王羲之が家族や友人に宛てた手紙29通をまとめた「十七帖」は、1600年以上の時を経て、今もなお書のお手本として愛されています。かくいう釈迦堂高彩氏もその一人。繰り返し「十七帖」を描き続け、あふれ出る王羲之の家族への優しさや謙虚さ、好奇心など、細かく温かい思いをなぞることで自分自身をも満たしています。

有識者のコメント
「釈迦堂さんの作品で好きなのは、筆跡から彼女の繊細さが感じられるところです。文字そのものの意味は分からなくても、彼女の心の動きが伝わってきます」
そうコメントするのは、美術史教授で美術評論家のエリック・モンサンジョン氏。また、ギャラリストでオーナーのエチエンヌ・ドゥ・コーザン12世は、コメントに次のような言葉を残しています。
「書道を本格的に始めたのは2018年のことだと知り、彼女がわずか数年でこの芸術様式において熟達した才能を発揮したことに驚いています。(中略)作品が織りなす非常に印象的な全体像は、来場者にとって初めて出会うものでしょう」
今回の個展では、なぞった王義之の温かい想いを筆遣いや表装の細部にも込めて、今のパリを生きる人々に届けました。言葉の壁、文化の違いを超越した心交わす時間が、芸術の街・パリの街角に流れました。
