井波谷 栄「光彩」
公開日:
2016-12-23
本書『光彩』は、洋画家・井波谷栄氏の70歳の節目を記念して編まれた、渾身の作品集です。1990年から続く画業のなかから、これまで未発表であった選りすぐりの作品を収録し、人生と自然への深い愛情と、色彩への卓越した感性が織り成す芸術世界を余すことなく紹介しています。
花咲く草原や人々の営み、港や街の風景など、日常の中にある美しさを鋭く見つめ、あたたかな色彩と繊細な構図で紡ぎ上げる独自の表現が特徴です。その絵には、懐かしさと喜び、そして自然や命への慈しみがたっぷりと込められており、ページをめくるたびに観る者の心に優しく語りかけてきます。
「光に癒やされる気持ちは、世界共通である」――作者自身がそう語るように、本作品集には、タイやフランスなど海外の地で賞賛を浴びてきた国際感覚と、日本人としての美意識の両方が融合しています。色の選び方、線の柔らかさ、構図の奥行き。そのすべてが、まるでオーケストラのように調和し、観る人の心をそっと包み込んでくれます。
第一画集から5年。数々の受賞歴を経て、なお描き続けるその姿勢は、生きることそのものを芸術に昇華させるような静かな情熱に満ちています。身体の痛みや葛藤の中でも筆を取り続け、「元気をもらった」「癒やされた」との声に支えられてきた作者が、今なお伝えたいと願うのは、命の尊さと、日常にあふれる光の美しさ。
この一冊には、井波谷栄という一人の画家の歩みと共に、誰もが見過ごしてきた小さな喜びや希望の光がそっと描き込まれています。 芸術を愛する人に贈る、あたたかくも力強い一冊です。
画集・A4判・36頁